芹沢俊介 養育を語る 理論篇Ⅲ

 

 芹沢が自らを励まし作り上げてきた、現場に拮抗しえる言葉、即ち養育思想は本質的であり実践的である。そして「思想が生み出す現場の力」という命題をモチーフに、養育論は作られてきた。
  「芹沢俊介 養育を語る」ブックレットシリーズは、事件篇五巻、理論篇三巻、全八巻をもって完結するが、本書はその掉尾を飾るものである。
  初源に遡って更に思考を重ね、養育論の思想的な強固さは増している。その展開の深さを改めて読者にお届けすることが出来たと思う。

 


理論篇Ⅲ 目次

はじめに

虐待のない時代はあったのか ― 家族史を視点に

親というあり方が孕む底知れぬ暴力性/継父による虐待事例の典型/同居に至るまで/母の恋愛は外で/妊娠―優里の不用意/寄る辺なき状態へ/優先順位が娘から男へ移った/一時保護/しつけという暴力/善通寺市から目黒区への転居/結愛ちゃんの死/虐待を家族史の中に位置づける/母系制の時代/母系制の遺存/婚姻史の中での母系制/二つの婚姻形態/妻問婚/生まれた子どもは妻方、母方が育てる/母系制、もう一つの形態/子の父は誰か/妻問から婿取りへ/妻と妾を分けるという意識/娶嫁婚に貫徹する父系原理/別火ということ/激変する子育て/虐待をなくすために/壊れつつある家族/イクメンという言葉

養育論を作る

思想が生み出す現場の力 ― 養育論を作る 第一部

「お前は現場を知らない」という批判/現場とはどういう場所か―現場主義者への根本的反論/想像力による言語化/臨床ゼロということ/切り抜きという手作業/虐待事件の構造把握/あなどれない「考えるという作業」/新しい場づくりの試み/話し手と聞き手の境界を子どもたちが崩してしまう/たった一つのこととは?/愛情ということ/受けとめ手としての親への移行/母性は本能ではない

二重の親 ― 養育論を作る 第二部

受けとめ手としての母親への移行/養育論に育ての親という概念はない/寄る辺なさ/施設の職員や里親の役割/根源的受動性/受けとめられ体験―自己受けとめはどうして起こるのか/五体満足/神話の中の障害児殺し/子どもの暴力の全面肯定/四つの言葉/誰を受けとめるのか/養育という場面に共通する出来事/「ある」について/暴力論の基本図式/「ある」ということ/安心ということ/寄りかかれること/受けとめ手の内在化/「ある」は「する」に先行しなくてはならない


養育論にとっての虐待

二つの虐待の捉え方/「扱い方」の良し悪し―福祉の視点/養育を問うことで本質が見えてくる/警察の虐待判断/置き去り状態/新聞報道の書き方/扱い―英語では、「treatment」/「扱い方」で捉えることのマイナス面/「abuse」という観点の限界/深刻さという強度/養育論から見た虐待/子どもは受けとめ手を求めている/虐待の定義/虐待は何をもたらすか/虐待された子に必要なのは


子どもの始まり ― コンシーブ体験について

三つの話題/コロナが変えた身体距離/家の中までマスク/記号化したマスク/鏡としての他者の振る舞い/自殺の先進国日本/自殺数の捉え方/自殺率/男の方が脆い/自殺率の男女比較から見えてくること/女性は命の足場をどこに置いているか/女性の自殺要因/「合計特殊出生率」は下がり続ける/家族史としての人口問題/人口減は避けられない/子どもの誕生/コンシーブ体験/「受胎する」―コンシーブの古い語義/夢の中で生まれた子ども/『マタイ伝』のこと/マリヤはなぜ、不意の妊娠をすんなりと受け入れたか/胎児はヨセフの子ではない/少子化の本質的な背景/コンシーブ体験が子どもたちから失われていった理由/最大の関心事は自分/恐るべき閉塞状況/妊娠はアクシデント/おっぱいの位置がわからないお母さんたち/母親の身体は子どものもの


刊行にあたって


書名 芹沢俊介 養育を語る 理論篇Ⅲ
発行日 2021年12月10日
サイズ等 A5判 176ページ
ISBN 978-4-9910235-7-6
定価 1018円(税込)